院長ブログ

健康講座851 「妊娠糖尿病の味方!ホエイプロテインの力」

 

皆さんこんにちは。今日は、妊娠中の血糖管理に関わるとても興味深い研究をご紹介します。

この研究のタイトルは「Premeal Whey Protein Lowers Postprandial Blood Glucose in Women With Gestational Diabetes Mellitus(食前のホエイプロテイン摂取は妊娠糖尿病の女性の食後血糖を低下させる)」というものです。研究は2025年に『Diabetes Care』という糖尿病に関する有名な医学雑誌に掲載されました。

そもそも「妊娠糖尿病」ってなに?

妊娠糖尿病(GDM:Gestational Diabetes Mellitus)とは、妊娠中に初めて発見された高血糖状態のことをいいます。妊娠中はホルモンバランスの変化によって血糖値が上がりやすくなるのですが、それが過度になると胎児や母体に悪影響を及ぼす可能性があります。

食後の血糖値が高くなりすぎると、胎児が大きく育ちすぎたり(巨大児)、出産時にリスクが高まったり、さらには将来的な糖尿病発症リスクも上がるとされています。ですから、食後の血糖値(食後血糖)をうまくコントロールすることは非常に重要です。


今回の研究は何を調べたの?

この研究では、「ホエイプロテイン(Whey Protein)を食前に摂ると、食後の血糖値が下がるのか?」ということを、妊娠糖尿病の女性を対象に詳しく調べました。

研究方法について簡単に説明します

  • 研究デザイン: ランダム化、クロスオーバー、単盲検、プラセボ対照試験

  • 対象者: 妊娠20〜36週の女性24名(GDM 12名、正常耐糖能 12名)

  • 実験内容:

    • 実験室で、ホエイプロテイン20gまたはプラセボを摂取し、30分後に75gの糖負荷(OGTT)を実施。

    • その後3時間にわたって血液を採取し、血糖値などを測定。

    • 自宅でも連続血糖測定器を装着し、異なる量(0, 10, 15, 20, 30g)のホエイを食前に摂って朝食後の血糖変化を観察。


ホエイプロテインって何?

ホエイプロテインとは、「乳清タンパク」とも呼ばれ、牛乳からチーズやヨーグルトを作る過程で出てくる液体部分に含まれる高品質なタンパク質です。

特徴:

  • 吸収がとても速い

  • 必須アミノ酸が豊富(特にBCAA)

  • 筋肉の合成を促進

  • インスリン分泌を刺激する作用もある

どんな食品に含まれる?

  • 牛乳

  • ヨーグルト(特にギリシャヨーグルトや水切りヨーグルト)

  • チーズを作った時のホエイ

  • サプリメント(プロテインパウダー)としても市販されています


タンパク質とは何か?

タンパク質は、私たちの体の筋肉、皮膚、酵素、ホルモンなどを構成する非常に重要な栄養素です。三大栄養素の1つで、炭水化物、脂質と並び、身体の維持や修復に欠かせません。

タンパク質を多く含む食品:

  • 肉類(鶏むね肉、牛赤身、豚ヒレなど)

  • 魚介類(鮭、マグロ、イワシなど)

  • 大豆製品(豆腐、納豆、豆乳)

  • 乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)


実験結果はどうだったの?

研究では、ホエイプロテインを食前に摂ったことで、以下のような効果が見られました。

実験室での結果:

  • 妊娠糖尿病の女性では、ピーク血糖値が平均で1.0 mmol/L(約18mg/dL)低下

  • 正常耐糖能の女性でも、0.7 mmol/L(約13mg/dL)低下

  • インスリン、GIP(胃抑制ペプチド)、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)が、ホエイ摂取後すぐに上昇。

    • → これは、食後の血糖上昇を抑えるメカニズムの1つです。

自宅での結果:

  • ホエイプロテインの摂取量が多くなるほど、食後の血糖値の上昇が抑えられました(用量依存性)。

  • 特に30g摂取したときは、最大で2.0 mmol/L(約36mg/dL)の血糖抑制効果


なぜホエイが効くの?

ホエイプロテインには、次のような血糖コントロールに役立つ特性があります。

  1. インスリンの分泌を促進

    • 食前にホエイを摂ることで、インスリンが早めに分泌され、食後の血糖上昇を抑制します。

  2. インクレチン(GIP、GLP-1)を活性化

    • これらのホルモンはインスリン分泌を助け、胃の排出を遅らせ、血糖の急上昇を防ぎます。

  3. 胃排出の遅延

    • ホエイを先に摂ることで胃の内容物の移動がゆっくりになり、血糖がゆっくり吸収されるため、血糖スパイクを防げます。


どれくらいの量を摂ればいい?

研究では、15g〜30gのホエイプロテインが有効とされました。日常生活に取り入れるなら、以下のような形がおすすめです:

  • 朝食30分前に、ホエイプロテインパウダーを水または低脂肪乳で溶かして飲む

  • ヨーグルト(ホエイ入り)を小鉢で先に食べる

  • 水切りヨーグルトやギリシャヨーグルトでも代用可(ただしホエイ含有量は市販品によって差があります)


今後の課題と期待されること

この研究は短期的な効果を示したものであり、「長期間の影響(母体と胎児への安全性を含む)を確認するためのさらなる研究が必要」とされています。

しかし、現時点でも「簡単に取り入れられる」「副作用の少ない」「サプリメント的にも活用できる」対策として、妊娠中の血糖コントロールに役立つ可能性が高いことが示唆されました。


まとめ

  • 妊娠糖尿病は妊娠中に発症する高血糖状態で、食後血糖の管理が大切。

  • 食前にホエイプロテイン(15〜30g)を摂ることで、食後血糖の上昇を抑えることができる。

  • ホエイプロテインは牛乳由来の高品質なタンパク質で、インスリンやインクレチンの分泌を促進し、血糖の急上昇を抑える。

  • 自宅でも実践可能な食事療法の一つとして、特に妊娠糖尿病の方には有益。

  • 長期的な安全性や効果については、今後の研究に期待。