【体重が増えると、血糖や心臓・腎臓の病気が悪くなることがわかりました】
(元論文:「Weight Gain Was Associated With Worsening Glycemia and Cardiovascular and Kidney Outcomes in Patients With Type 2 Diabetes Independent of Diabetes Medication in the GRADE Randomized Controlled Trial」)
こんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。
今日は、最新の医学研究から、とても大事な発見があったので、できるだけわかりやすくお伝えします。
今回ご紹介するのは、2型糖尿病(にがたとうにょうびょう) の患者さんについて、
「体重が増えると、血糖のコントロールや、心臓や腎臓の病気が悪くなりやすい」
ということが大きなデータで証明された、というお話です。
この研究は、「GRADE(グレード)試験」という、アメリカで行われたとても大きな臨床研究(りんしょうけんきゅう)で、
たくさんの患者さんを長い間(5年間)調べた、信頼できるものです。
どんな研究だったの?
対象となった患者さんたち
-
2型糖尿病を持つ 4,980人(約5000人)の方たち
-
平均年齢は 57歳、年齢の幅は 47~67歳くらい
-
BMI(体重と身長のバランスを示す数字) の平均は 34.3
→ BMIが25以上で「肥満」とされますから、みなさんやや太り気味の方が多かったということです。
治療内容
みんな最初に「メトホルミン(糖尿病のお薬)」を飲んでいました。
そこに追加で、以下のうち1つのお薬を使いました。
-
インスリングラルギン(インスリンの注射薬)
-
グリメピリド(血糖を下げる飲み薬)
-
リラグルチド(GLP-1受容体作動薬。血糖も体重も下げる注射薬)
-
シタグリプチン(DPP-4阻害薬。血糖を穏やかに下げる飲み薬)
この4種類のどれかに分かれて、5年間、血糖や体重、病気の起こり方を追いかけました。
体重はどうなったの?
1年目の体重の変化はこうでした。
-
リラグルチド を使った人 → 平均 −3.5kg 減った!
-
シタグリプチン を使った人 → 平均 −1.1kg 減った!
-
インスリングラルギン を使った人 → 平均 +0.45kg 増えた
-
グリメピリド を使った人 → 平均 +0.89kg 増えた
つまり、リラグルチドとシタグリプチンは体重を減らし、
インスリンとグリメピリドは少しだけ体重が増えた、ということがわかりました。
でも、どのお薬を使っていても、1年を過ぎるとだんだん体重は減っていきました。
体重が増えた人に起きたこと
ここがとても大事なポイントです。
最初の6か月以内に体重が増えた人は、次のリスクが高くなっていました。
-
血糖コントロールが悪化(HbA1cが7.5%を超える)しやすい
-
心臓病(心血管疾患)になりやすい
また、1年後に体重が増えていた人は、
-
血糖コントロール悪化のリスクがさらに高い
-
腎臓病のリスクも高くなっていた
という結果でした。
神経の病気(しびれなど) については、体重増加そのものより、もともとの体重(肥満)が影響しているということもわかりました。
体重が増えると、満足度も下がった
さらに、体重が増えた人は、
糖尿病治療に対する満足度(治療してよかったな、という気持ち)も下がっていました。
つまり、体重が増えると、
-
血糖もうまくいかない
-
心臓や腎臓にも悪い
-
治療に対する満足感も下がる
という**悪循環(あくじゅんかん)**になりやすい、ということです。
この研究からわかった大事なこと
-
リラグルチド や シタグリプチン は体重を減らしやすい。
-
インスリン や グリメピリド は体重が少し増えるけれど、その後は減ることもある。
-
体重が増えると、血糖や心臓、腎臓の病気に悪い影響が出る。
-
この傾向は、どのお薬を使っているかに関係なく見られた。
-
つまり、糖尿病治療では、「血糖だけでなく体重管理もとても大切」だということが改めて証明された。
【むずかしい言葉のやさしい解説】
-
2型糖尿病(にがたとうにょうびょう)
→ 主に「太りすぎ」や「生活習慣(食べすぎ・運動不足)」が原因で、インスリンの働きが悪くなったり、足りなくなったりして起こる病気。 -
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
→ 過去1~2か月の血糖値の平均を示す数字。高いと糖尿病が悪化しているサイン。 -
心血管疾患(しんけっかんしっかん)
→ 心臓や血管に起きる病気のこと。心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)など。 -
腎臓病(じんぞうびょう)
→ 腎臓の働きが悪くなり、老廃物(ろうはいぶつ:体にいらないもの)をうまく外に出せなくなる病気。 -
GRADE試験(グレードしけん)
→ たくさんの患者さんを対象に、長期間にわたって治療の効果や安全性を比べる、すごく大きな実験。 -
臨床研究(りんしょうけんきゅう)
→ 実際に人間を対象にして、薬や治療法を試して確かめる研究。
【まとめ】
今回の研究から、はっきりわかったことは、
-
糖尿病の治療では、「血糖値を下げる」だけではなく、「体重を管理する」こともとても大事!
-
特に、治療の最初のころ(最初の半年~1年)に体重が増えると、その後の病気リスクが高くなりやすい。
-
できるだけ、体重を増やさず、むしろ少し減らすくらいが、血糖も心臓も腎臓も守ることにつながる。
ということです。
つまり、小川糖尿病内科クリニックでも、患者さんたちと一緒に、
-
「血糖をよくする」
-
「体重をいい感じに保つ」
この両方を目指していくことがとても大事だと、改めて感じています。
【おわりに】
糖尿病は、「血糖が高いだけの病気」ではありません。
血糖が高いと、心臓、腎臓、神経、目、足、たくさんの大事な場所に悪い影響が出てしまいます。
そのリスクを減らすためにも、
薬を上手に使いながら、体重を増やしすぎないように、日々の生活(食事、運動、睡眠)を少しずつ整えていきましょう。
そして、小川糖尿病内科クリニックは、みなさん一人ひとりに合ったペースで、
無理なく、でも確実に、健康を守っていけるようにサポートしていきます!