院長ブログ
2021.10.11 | お知らせ
健康講座346 COVID-19による高血糖
みなさんどうもこんにちは。
小川糖尿病内科クリニックでございます。
糖尿病の主徴である高血糖は炎症や感染に対抗する免疫の低下と関連し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の早くからその重症化要因の一つと認識されていました。その逆に、COVID-19は糖尿病と無縁だった人の高血糖と関連することも最近になって知られるようになっています。
米国でCOVID-19が流行りはじめたころの数ヵ月間(2020年3月1日~5月15日)にCOVID-19と診断されてニューヨーク州の病院に入院したおよそ4千人(3,854人)を調べたところ、実におよそ半数(49.7%)に高血糖が生じていたようです1,2)。
高血糖だと予後はより不良で、正常血糖の患者に比べて重度呼吸器不全・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は9倍、人工呼吸器使用は15倍、死亡は3倍多いことと関連しました。
高血糖はCOVID-19以外の重度肺機能不全でも認められ、インフルエンザや細菌性肺炎などのCOVID-19以外の病態によるARDS患者とCOVID-19と関連するARDS患者の高血糖の割合は似たようなものでした。
しかし高血糖の仕組みには違いがあり、前者ではインスリンを作るβ細胞の死や機能不全がどうやら主因であるのに対し、COVID-19と関連するARDS患者の高血糖は主にインスリン抵抗性によって生じていました。インスリン抵抗性はインスリンが出回っているにもかかわらずそれに反応できなくなることで生じます。
COVID-19患者のインスリン抵抗性の原因を探るべく糖調節ホルモンを調べたところ血液中のアディポネクチンがひどく減っていました。アディポネクチンは脂肪細胞で作られるホルモンであり、インスリンへの反応を高めて糖尿病を生じにくくする役割を担います。
SARS-CoV-2はヒトやマウスの脂肪細胞に感染可能であり、じかに脂肪細胞に手を下してアディポネクチン生成を妨害しているのかもしれません。
SARS-CoV-2が脂肪細胞に影響を及ぼしうることはハムスターへの感染実験で示されています。
今回の研究は治療の可能性も示唆しています。たとえばピオグリタゾンなどのアディポネクチン生成を増やすチアゾリジンジオン糖尿病薬は高血糖を伴うCOVID-19の治療に役立つかもしれません2)。メトホルミンなどの他のインスリン感受性亢進薬で糖代謝を底上げしてインスリン投与を回避することも期待できそうです1)。安全性や効果を調べる今後の試験でそれら薬剤のCOVID-19治療での価値が定まるでしょう。
参考
- 1)
- 2)