院長ブログ

健康講座862 妊娠糖尿病治療GDM治療:メトホルミンとインスリンの効果比較と日本の現状

 皆さん、こんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。本日は、妊娠糖尿病(GDM)の管理に関する最新の研究結果についてお話しします。GDMは、妊娠中に高血糖状態になる疾患で、母親や生まれてくる子供の将来的な健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。今回取り上げるのは、GDMの治療に用いられるメトホルミンとインスリンが、母親の治療によって生まれた子供たちの心血管代謝に与える影響についての比較研究です。また、日本国内でのメトホルミンの使用に関する規制についても触れます。

 



 

 

**はじめに**  

GDMは、通常メトホルミンまたはインスリンを使用して管理されますが、これら2つの治療法が将来的に子供たちの心血管代謝にどのように影響を与えるかについては、これまで十分な研究が行われていませんでした。そこで、1974年から2024年5月までに発表されたランダム化比較試験(RCT)を対象に、メトホルミンとインスリンによるGDM治療が子供に与える影響について、系統的なレビューが実施されました。

 

今回のレビューでは、5463件の記録から、特定の基準を満たした5つの研究が選ばれました。これらの研究には、メトホルミンを使用したGDM母親から生まれた409人の子供と、インスリンを使用したGDM母親から生まれた434人の子供が含まれています。各研究では、子供たちの心血管代謝に関する指標が追跡され、特に無脂肪質量や腹部脂肪量、断食時血糖値、トリグリセリドに注目が集まりました。

 

**日本でのメトホルミンの使用に関する規制**  

まず、ここで重要なのは、日本においてメトホルミンは妊婦、または妊娠している可能性がある女性には**禁忌**とされているという点です。これは、日本の医薬品添付文書に記載されており、母体や胎児に与える影響を考慮してのものです。そのため、日本国内ではGDMの治療にメトホルミンを使用することは推奨されておらず、主にインスリンが選択されます。この点を踏まえ、海外の研究結果をそのまま国内に適用することには注意が必要です。

 

**メトホルミンとインスリン治療の比較結果**  

レビューの結果、メトホルミンで治療された母親から生まれた5〜9歳の子供において、無脂肪質量が増加し、MRIで測定された皮下脂肪や内臓脂肪が多いことが示されました。一方で、断食時血糖値とトリグリセリドは、メトホルミン治療群でインスリン治療群よりも低い傾向が見られました。これらの結果は、メトホルミンが将来的に心血管疾患のリスクを低減する可能性を示唆しています。しかし、他の心血管代謝指標(血圧やコレステロール値など)には、治療群間で有意な差は見られませんでした。

 

また、5歳未満の子供に関するデータは非常に限られており、メタ分析も体重に関してのみ行われましたが、その差は統計的に有意ではありませんでした。

 

**短期間での影響と今後の課題**  

短期間でのフォローアップによる結果からは、メトホルミンとインスリン治療による心血管代謝の影響に大きな違いは見られませんでした。ただし、これらの研究は追跡期間が短いため、長期的な影響についての結論を出すには不十分です。今後は、より長期間にわたる追跡調査が必要であり、特に異なる民族や地域における研究が望まれます。

 

**小川糖尿病内科クリニックの見解**  

今回の研究は、GDM治療におけるメトホルミンとインスリンの違いについて、一定の知見を提供するものですが、妊娠中の治療法の選択には個々の患者さんの状況や日本国内の規制を十分に考慮する必要があります。日本では、妊婦や妊娠可能な女性に対するメトホルミンの投与は禁忌とされていますので、インスリンを用いた治療が基本となります。

 

GDMの管理については、母体の健康だけでなく、将来的な子供の健康も考慮した慎重な判断が求められます。当クリニックでは、最新の医療知識を基に、個々の患者さんに最適な治療法を提供しています。治療に関するご質問やご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

これからも、小川糖尿病内科クリニックは、患者さんの健康を第一に考えた医療を提供してまいります。