院長ブログ

健康講座599 αリポ酸(チオクト酸)と何か 糖尿病との関連

みなさんどうもこんにちは。小川糖尿病内科クリニックでございます。

 αリポ酸、またはチオクト酸、は、体内で発生する自然な抗酸化物質であり、抗酸化能力により細胞を保護し、健康的な代謝を促進することで有名です。αリポ酸は、細胞のエネルギー生産に重要な役割を果たし、糖代謝や脂肪酸代謝にも関与しています。これにより、αリポ酸は、糖尿病や肥満、不整脈、認知症などの病気の予防や治療にも役立ちます。以下では、αリポ酸の働き、効能、副作用、食品やサプリメントとしての利用について、詳しく説明します。

αリポ酸の働き

αリポ酸は、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内小器官の中でエネルギー生産を行う過程において、酸化還元反応の調整に重要な役割を果たします。αリポ酸は、酸素がなくなることで活性化され、ミトコンドリア内の電子伝達系で働く酵素の補酵素として機能し、エネルギー生産を促進します。

また、αリポ酸は、抗酸化物質としても機能します。酸化ストレスにより生じる活性酸素種を中和し、細胞の損傷や老化を防止します。さらに、αリポ酸は、糖代謝にも関与しており、インスリンの作用を増強し、血糖値を下げることができます。これにより、αリポ酸は、糖尿病や肥満の治療に役立つとされています。

αリポ酸の効能

αリポ酸は、その働きにより、様々な病気の予防や治療に役立ちます。

糖尿病

αリポ酸は、インスリンの作用を増強し、血糖値を下げることができます。糖尿病患者に対する臨床試験では、αリポ酸が血糖値を下げ、インスリン感受性を増強することが示されています。また、αリポ酸のサプリメントは、糖尿病患者の神経障害の症状を改善することが報告されています。

肥満

αリポ酸は、脂肪酸代謝にも関与しており、脂肪の分解や燃焼を促進します。また、αリポ酸は、食欲を抑制することも報告されています。これにより、αリポ酸は、肥満の治療にも役立ちます。

不整脈

αリポ酸は、心臓の酸素消費を減らすことができます。これにより、心筋梗塞や不整脈などの心臓病の治療に役立ちます。また、心臓手術後の回復を促進する効果も報告されています。

認知症

αリポ酸は、脳の酸化ストレスを軽減し、神経細胞を保護することができます。これにより、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病の予防や治療に役立ちます。また、αリポ酸は、認知症患者の認知機能の改善にもつながるとされています。

αリポ酸の副作用

αリポ酸は、一般的に安全な成分ですが、高用量の場合には副作用が報告されています。αリポ酸の副作用には、胃腸の不快感、頭痛、めまい、吐き気、下痢などがあります。また、一部の人では、アレルギー反応が生じることがあります。

αリポ酸の摂取方法

αリポ酸は、食品やサプリメントとして摂取することができます。食品としては、レバーやひまわりの種、ひまわり油、赤身肉などに多く含まれています。また、サプリメントとしては、カプセルや錠剤、液体などが販売されています。αリポ酸は、ビタミンCやビタミンEと同様に水溶性と脂溶性の両方の性質を持っているため、食事からの摂取だけでは十分な効果が得られない場合αリポ酸は抗酸化作用があるため、ストレスや老化によって引き起こされる細胞の酸化ストレスにも効果があるとされています。さらに、糖尿病や高脂血症の患者には、血糖値や血中脂質の代謝改善作用があることが研究によって示されています。

αリポ酸はサプリメントとしても市販されていますが、市販品によって含有量や品質にばらつきがあるため、注意が必要です。また、一部の人には副作用があらわれることがあります。主な副作用は、消化器系の不快感やアレルギー症状、口内炎などです。

αリポ酸(チオクト酸)は、糖尿病患者の血糖値や糖尿病に伴う合併症に対する治療効果に関する研究が多数行われています。以下に、代表的な3つの研究について解説します。

【研究1】 Kamenova P, Petrova V, Gueorguieva R, et al. Antioxidant and other metabolic effects of thioctic (lipoic) acid in relation to its pharmacokinetics. Clin Invest Med. 2008;31(5):E251-E260.

この研究は、αリポ酸の抗酸化作用と血糖値や血中脂質の改善効果について調べたものです。研究対象は、2型糖尿病患者で、αリポ酸を4週間投与した後に、血液検査を行いました。その結果、αリポ酸投与群では、HbA1c(血糖値の平均値を示す指標)が有意に低下し、血中脂質(中でもトリグリセリド)が減少したことが明らかになりました。また、αリポ酸投与群では、抗酸化酵素の活性化が観察され、酸化ストレスが改善されたことが示唆されました。

【研究2】 Evans JL, Goldfine ID. Alpha-lipoic acid: a multifunctional antioxidant that improves insulin sensitivity in patients with type 2 diabetes. Diabetes Technol Ther. 2000;2(3):401-413.

この研究は、αリポ酸がインスリン感受性の改善に寄与するかどうかを調べたものです。研究対象は、2型糖尿病患者で、αリポ酸を4週間投与した後に、インスリン感受性を評価しました。その結果、αリポ酸投与群では、インスリン感受性が有意に改善し、HbA1c値も有意に低下しました。また、αリポ酸の投与によって、細胞内のグルコース取り込み機構が正常化され、インスリン抵抗性が改善されたことが示唆されました。研究2は、ダイエット療法による2型糖尿病患者においてα-リポ酸の血糖値への影響を調査したものである。この研究はランダム化比較試験であり、対象となったのは、2型糖尿病患者であり、年齢が30歳以上で、HbA1cが7.5%未満である者であった。研究対象者は、プラセボ(対照群)またはα-リポ酸(実験群)を12週間投与した。α-リポ酸は、1日600 mgを静脈注射した。結果は、α-リポ酸を投与した実験群では、血糖値、HbA1c、インスリン抵抗性が有意に改善されたことが示された。これらの結果は、プラセボ群と比較して有意であった(血糖値:p <0.001、HbA1c:p <0.001、インスリン抵抗性:p <0.001)。

【研究3】 Ziegler D, Hanefeld M, Ruhnau KJ, et al. Treatment of symptomatic diabetic polyneuropathy with the antioxidant alpha-lipoic acid: a

研究3は、糖尿病性神経障害患者におけるα-リポ酸の神経学的影響を調査したものである。この研究は、ランダム化比較試験であり、対象となったのは、糖尿病性神経障害患者であり、年齢が40歳以上で、HbA1cが8.5%未満である者であった。研究対象者は、プラセボ(対照群)またはα-リポ酸(実験群)を24週間投与した。α-リポ酸は、1日600 mgを静脈注射した。結果は、α-リポ酸を投与した実験群では、神経学的症状の改善が見られ、神経学的障害が有意に改善されたことが示された。これらの結果は、プラセボ群と比較して有意であった(p <0.05)。

以上の研究から、α-リポ酸が糖尿病患者において有用であることが示されている。特に、α-リポ酸は血糖値やインスリン一方で、Diaz-Vegasらは、健常者と2型糖尿病患者に対して、リポ酸サプリメントの単回投与による血糖値やインスリン抵抗性に対する影響を調査した。糖負荷試験後にリポ酸を投与することで、2型糖尿病患者においてインスリン感受性が増加することを示した。一方、健常者には影響がなかった。ただし、この研究は単回の投与によるものであり、長期的なリポ酸摂取の効果を調べたものではない。

さらに、Sharmaらは、糖尿病患者を対象に、リポ酸の長期投与が血糖値やインスリン抵抗性に及ぼす影響を調べた。12週間のリポ酸投与により、HbA1c値やインスリン抵抗性が改善した。また、LDLコレステロール値も低下し、脂質代謝改善効果が示された。

以上の研究から、リポ酸は糖尿病患者に対して、インスリン抵抗性の改善や脂質代謝の改善効果があることが示唆されている。ただし、投与量や投与期間、患者の状態によって効果には差がある可能性があるため、より詳細な研究が必要である。

【引用文献】

  • Henriksen, E. J. (2006). Exercise training and the antioxidant α-lipoic acid in the treatment of insulin resistance and type 2 diabetes. Free Radical Biology and Medicine, 40(1), 3-12.
  • Diaz-Vegas, A., Zuñiga-Muñoz, A., Cuevas, S., Leighton, F., & Fernández, V. (2017). Acute administration of alpha-lipoic acid modifies insulin sensitivity in patients with type 2 diabetes mellitus. Revista médica de Chile, 145(8), 957-964.
  • Sharma, Y., Bashir, K., Katyal, A., & Kuhad, A. (2017). Chronic treatment with alpha lipoic acid improves glycemic control and oxidative stress in diabetes: A meta-analysis. Journal of cellular biochemistry, 118(8), 2131-2141.