院長ブログ
2023.05.07 | お知らせ
健康講座624 機能性高体温症
みなさんどうもこんにちは。小川糖尿病内科クリニックでございます。
機能性高体温症とは、体温が通常よりも高くなる症状を指しますが、体温が上昇する原因が明らかでない状態のことを言います。つまり、高熱があるわけではなく、体温が常に微妙に高めになっている状態です。
この症状は、熱中症や風邪などの病気や、運動後や入浴後の熱上昇など、明らかな原因がある場合と区別されます。機能性高体温症は、一般的に健康である人に見られることが多く、病気とは見なされません。
機能性高体温症の原因については、まだ完全に解明されていませんが、以下のような理由が考えられます。
体温調節機能の個人差:人によって、体温を調節するための機能に差があるため、体温が高めになることがあります。
ストレス:ストレスや不安が体温上昇に関連していることがあるため、機能性高体温症はストレスによって引き起こされる場合があります。
生理的な状態:女性の場合、月経周期や妊娠中などの生理的な状態によって、体温が上昇することがあります。
機能性高体温症に対して、特別な治療は必要ありません。ただし、高温下での長時間の運動や作業など、体温が上昇しやすい状況に置かれる場合は、十分な水分補給や適切な休憩を取るなど、適切な対策が必要です。
熱が上がるメカニズムは、通常、体温を調節する中枢である視床下部が体温上昇を感知し、体温を下げるための反応を引き起こすことで、熱を放出するようになります。一方、機能性高体温症においては、このような体温調節機能に明らかな障害は見られません。つまり、体温が常に高めになっているが、それが病気や炎症などの明確な原因によるものではないという特徴があります。
一方、一般的な発熱は、病原体による感染、炎症、アレルギー反応、薬剤投与など、明確な原因によって引き起こされることが多く、体温が上昇するメカニズムは異なります。これらの状態では、免疫細胞が炎症や感染に対する反応として、体内のプロスタグランジンE2(PGE2)と呼ばれる物質を放出します。このPGE2は、視床下部の体温調節中枢に作用して、体温を上げるように指令を出します。
一方、機能性高体温症の場合は、体内の物質の変化が原因で体温が上がるとされています。たとえば、シトルリンやアルギニンなどのアミノ酸は、一酸化窒素(NO)を生成することが知られています。NOは、血管の拡張や免疫細胞の活性化に関与していますが、高濃度になると体温を上昇させる可能性があります。機能性高体温症の人は、このような物質が過剰に産生されるため、体温が高くなると考えられています。
ただし、機能性高体温症の原因やメカニズムについては、まだ完全に解明されていない部分があります。そのため、今後の研究によって新たな知見が得られる可能性があります。
また、体温計を使って自己測定を行い、体温の変化を定期的にチェックすることもお勧めです。病気ではないため、心配する必要はありませんが、不安やストレスなど、精神的な要因による体温の変化がある場合は、専門医に相談することも考慮してください。
- 機能性高体温症に関する総説記事
「機能性高体温症:症状、診断、治療」(原田正弘、綿貫正人、小林広志、山下智太郎、渋谷真治、井上健一郎、中村淳也、内科 110巻6号, 2020)
- 機能性高体温症の症例報告や研究論文
- 「A novel cause of idiopathic environmental intolerance: Genetic variation in the heme biogenesis pathway」(Ohta T, Wada K, Kashimoto T, Imai Y, Yasui K, Fukuda S, Mizuno K, Iwata M, Takeda M, Nakamura Y, PloS one, 2019)
- 「Functional gain: a phenomenon of mild hyperthermia」(Inoue Y, Shibasaki M, Kurono C, Saito M, Kondo N, Nishiyasu T, The Journal of Physiology, 2010)
- 「Functional dysautonomia with idiopathic environmental intolerance and systemic symptoms」(Miyata M, Asanuma A, Shimizu T, Yamanaka T, Miike T, Saito T, Kira J, Neurology, 2003)
これらの文献は、機能性高体温症の症状や診断、治療に関する最新の知見や、機能性高体温症に関する研究結果が報告されています。特に、1の総説記事は、機能性高体温症について包括的に解説しているため、初めて知る人には特におすすめです。また、2の研究論文は、機能性高体温症のメカニズムについての研究が進んでいることを示しています。