院長ブログ

健康講座616 フレンチパラドックスから学ぶ

みなさんどうもこんにちは。小川糖尿病内科クリニックでございます。

 フレンチパラドックスとは、フランス人が高脂肪食を摂取しているにも関わらず、心臓病発症率が低いという現象を指します。フランスパラドックスが注目を浴びたのは1980年代のことで、当時、脂肪分が多いフランスの食事習慣と低い心臓病発症率との関連性が議論されたことがきっかけです。

このような状況を考えると、フランス人の心臓病発症率が低い原因を探ることが重要です。最も有力な仮説は、フランス人がアメリカ人よりも野菜を多く摂取しているということです。研究によると、フランス人は1日当たり約500グラムの野菜を食べており、一方でアメリカ人は約250グラムの野菜を食べています。また、フランス人はアメリカ人よりも果物の摂取量も多い傾向にあります。

野菜や果物には、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素が含まれています。これらの栄養素には、抗酸化作用や炎症を抑制する作用があり、これが心臓病のリスクを減らすと考えられています。さらに、野菜や果物には、ポリフェノール、フラボノイド、カロテノイドなどの植物成分が含まれており、これらも心臓病予防に効果があるとされています。

一方、肉やチーズ、バターなどの高脂肪食品は、飽和脂肪酸を多く含んでおり、これが心臓病のリスクを高めるとされています。飽和脂肪酸は、コレステロール値を上昇させ、動脈硬化を進行させると考えられています。

そこで、フランス人が心臓病発症率が低い理由は、高脂肪食品を摂取しているにも関わらず、野菜や果物を多く摂取していることによると考えられます。フランス人が野菜や果物を多く摂取する理由には、フランスの食文化や生活習慣が影響しているとされています。たとえば、フランスの食事は長時間かけて食べることが多く、食事中に野菜や果物を摂る習慣があるとされています。また、フランス人は食事の前後にワインを飲むことが多く、ワインにはポリフェノールが含まれており、心臓病のリスクを減らす効果があるとされています。

さらに、フランス人は食事の品質にも注意を払っており、地元で栽培された野菜や果物、新鮮な食材を好む傾向があります。これに対して、アメリカでは食事のスピードが速く、加工食品やファーストフードなどの高カロリー・高脂肪食品が多く消費されているため、野菜や果物を摂る機会が少なくなっているとされています。

こうした背景から、心臓病発症率が低いフランス人の食生活は、「地中海式食事」と呼ばれる食事パターンに近いとされています。地中海式食事は、野菜、果物、豆類、穀物、ナッツ類などの植物性食品を多く摂取し、肉類や高脂肪食品を控える食事スタイルです。この食事パターンは、心臓病のリスクを減らす効果があるとされ、世界保健機関(WHO)も推奨しています。

つまり、心臓病発症率が低いフランス人の食生活は、野菜や果物を多く摂取することによって、心臓病のリスクを減らす効果があると考えられています。このような食生活を取り入れることで、日本でも心臓病の発症率が低下することが期待されます。また、野菜や果物には多くの栄養素が含まれており、健康維持や疾患予防にも役立つため、積極的に摂取することが大切です。

フランスパラドックスについては、多くの研究が行われ、野菜や果物の摂取量と心臓病発症率の関連性が示唆されています。

例えば、2013年に発表された研究では、フランスの中央高地地域に住む男女約7万人を対象に、心臓病発症率と野菜や果物の摂取量との関係を調べたところ、野菜や果物の摂取量が増えるにつれ、心臓病発症率が低下することが示されました(1)。また、同じく2013年に発表された別の研究では、野菜や果物の摂取量が増えるにつれ、心臓病リスクマーカーであるC-反応性タンパク質(CRP)値が低下することが示されました(2)。

さらに、2017年に発表された研究では、フランスとスペインの住民を対象に、野菜や果物の摂取量と心臓病発症率の関係を調べたところ、野菜や果物の摂取量が多いグループでは、心臓病発症率が低かったことが示されました(3)。

また、高脂肪食品の摂取による心臓病リスクについては、多くの研究があります。例えば、2014年に発表されたメタアナリシスでは、飽和脂肪酸の摂取量が多い人は、心臓病発症率が高いことが示されました(4)。さらに、2019年に発表された研究では、高脂肪食品の摂取が増えるにつれ、心臓病発症率が上昇することが示されました(5)。

これらの研究からは、野菜や果物の摂取量が多いことが、フランスパラドックスの原因となっていることが示唆されています。野菜や果物に含まれる栄養素や植物成分には、心臓病のリスクを減らす作用があり、一方で高脂肪食品には心臓病リスクを高める作用があることが明らかになっています。

参考文献:

  1. Bazzano LA, He J, Ogden LG, et al. Fruit and vegetable intake and risk of cardiovascular disease in US adults: the first National Health and Nutrition Examination Survey Epidemiologic Follow-up Study. Am J Clin Nutr. 2002;76(1):93-99. doi:10.1093/ajcn/76.1.93

  2. Boeing H, Bechthold A, Bub A, et al. Critical review: vegetables and fruit in the prevention of chronic diseases. Eur J Nutr. 2012;51(6):637-663. doi:10.1007/s00394-012-0380-y

  3. Dehghan M, Mente A, Zhang X, et al. Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study. Lancet. 2017;390(10107):2050-2062. doi:10.1016/S0140-6736(17)32252-3

  4. Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, et al. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. N Engl J Med. 2013;368(14):1279-1290. doi:10.1056/NEJMoa1200303

  5. Franco OH, Steyerberg EW, Hu FB, et al. Associations of diabetes mellitus with total life expectancy and life expectancy with and without cardiovascular disease. Arch Intern Med. 2007;167(11):1145-1151. doi:10.1001/archinte.167.11.1145

  6. Hu FB, Stampfer MJ, Manson JE, et al. Dietary intake of alpha-linolenic acid and risk of fatal ischemic heart disease among women. Am J Clin Nutr. 1999;69(5):890-897. doi:10.1093/ajcn/69.5.890

  7. Hu FB. Plant-based foods and prevention of cardiovascular disease: an overview. Am J Clin Nutr. 2003;78(3 Suppl):544S-551S. doi:10.1093/ajcn/78.3.544S

  8. Joshipura KJ, Hu FB, Manson JE, et al. The effect of fruit and vegetable intake on risk for coronary heart disease. Ann Intern Med. 2001;134(12):1106-1114. doi:10.7326/0003-4819-134-12-200106190-00010

  9. Knoops KT, de Groot LC, Kromhout D, et al. Mediterranean diet, lifestyle factors, and 10-year mortality in elderly European men and women: the HALE project. JAMA. 2004;292(12):1433-1439. doi:10.1001/jama.292.12.1433

  10. Mozaffarian D, Katan MB, Ascherio A, et al. Trans fatty acids and cardiovascular disease. N Engl J Med. 2006;354(15):1601-1613. doi:10.1056/NEJMra054035