院長ブログ
2023.06.08 | お知らせ
健康講座693 ”妊娠糖尿病の早期治療:新生児の健康への影響とは?”
みなさん、こんにちは!小川糖尿病内科クリニックです。今日は、妊娠糖尿病についての最新の研究結果をお伝えします。この研究は、妊娠初期の糖尿病患者に対する治療のタイミングについて、新たな視点を提供しています。それでは、さっそく詳しく見ていきましょう。
まず、この研究の名前は「TOBOGM試験」。オーストラリア・ウエスタンシドニー大学のDavid Simmons氏らが実施し、その結果は2023年5月5日にNEJM誌オンライン版で公表されました。この試験は、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、インドの17病院が参加し、2017年5月から2022年3月までの間に行われました。
試験の対象は、18歳以上で高血糖のリスク因子を有し、2013年のWHO基準で妊娠糖尿病の診断を受けた妊娠4週から19週6日までの女性。これらの女性は、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による反復検査の妊娠24週から28週時の結果に基づき、妊娠糖尿病に対する即時治療を行う群と、治療を延期あるいは行わない群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられました。
試験の主要アウトカムは、新生児の有害なアウトカムの複合(妊娠37週未満での出生、分娩外傷、出生体重4,500g以上、呼吸窮迫、光線療法、死産/新生児死亡、肩甲難産)、妊娠関連高血圧(妊娠高血圧腎症、子癇、妊娠高血圧)、新生児の除脂肪体重の3つでした。
解析には793例が含まれ、即時治療群には400例、対照群には393例が割り付けられました。新生児の有害なアウトカムの複合は、即時治療群では24.9%、対照群では30.5%で認められ、即時治療群の方が発生率が低かったことが示されました。これは、妊娠糖尿病の早期治療が新生児の健康に対して一定の効果をもたらす可能性を示唆しています。
一方、妊娠関連高血圧については、即時治療群では10.6%、対照群では9.9%で発生し、即時治療と治療の延期または行わない選択との間には大きな差は見られませんでした。これは、妊娠糖尿病の治療が必ずしも妊娠関連高血圧のリスクを低下させるわけではないことを示しています。
また、新生児の除脂肪体重についても、即時治療群と対照群との間には有意な差は見られませんでした。しかし、新生児の呼吸窮迫については、即時治療群では9.8%で発生したのに対し、対照群では17.0%で発生し、即時治療が新生児の呼吸窮迫の発生を有意に減少させる可能性があることが示されました。
さて、これらの結果から何が言えるでしょうか。まず、妊娠糖尿病の早期治療が新生児の有害なアウトカムの複合の発生をある程度抑制する効果があることが示されました。特に新生児の呼吸窮迫の発生に対しては、即時治療が有意にそのリスクを減少させる可能性があります。一方で、妊娠関連高血圧や新生児の除脂肪体重については、即時治療と治療の延期または行わない選択との間に有意な差は見られませんでした。
これらの結果は、妊娠糖尿病の治療戦略を考える上で重要な示唆を与えています。特に、妊娠初期に妊娠糖尿病の診断を受けた女性に対する治療のタイミングについて、新たな視点を提供しています。しかし、治療のタイミングが妊娠関連高血圧や新生児の除脂肪体重に影響を及ぼさないことから、治療の適切なタイミングについてはさらなる研究が必要であるとも言えます。
また、この試験の結果は、WHO基準で早期の妊娠糖尿病と診断された女性の3分の1が、反復OGTTで妊娠24~28週時に妊娠糖尿病ではなかったという事実を明らかにしています。これは、妊娠糖尿病の診断基準やスクリーニング方法について、再考の余地があることを示唆しています。
以上のように、TOBOGM試験は、妊娠糖尿病の早期治療についての重要な知見を提供しています。これらの結果は、妊娠糖尿病の管理と治療に関する現行のガイドラインの見直し、または新たなガイドラインの作成に役立つ可能性があります。
それでは、今日はこの辺で。次回も最新の医療情報をお届けしますので、お楽しみに!皆さんの健康を心から願っています。小川糖尿病内科クリニックでした。