院長ブログ

健康講座690 ”医療予約、ゲームチェンジャー: DNA率を大幅減少させる革新的3つのステップ”

 みなさん、こんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。今回は、一般的な医療問題について新たな視点を提供する興味深い研究を紹介したいと思います。ただし、この情報を共有することで、必ずしも我々がこの視点を全面的に支持しているわけではなく、情報の一部として受け取っていただきたいと思います。

「診察予約をしたけれども行かない」――この現象は、医療業界では”DNA”(Did Not Attend)と呼ばれています。DNAは、予約が取られてから24〜48時間以内に診察が必要となる患者たちにとって、予約可能な時間帯を奪い、医療提供者にとっては時間とリソースの無駄となります。しかも、DNAの率は一部でなんと23.3%にも達するというデータがあります。これは、予約した4人のうち1人が診察に現れないことを意味します。一次医療を受ける患者たちにとって、これは大きな問題となります。

さて、この問題をどう解決するか?何年もの間、さまざまなアプローチが試みられてきました。予約リマインダーの電話やテキストメッセージ、電子メールによる通知等があります。しかし、これらの方法がいつも効果的とは限らないことがわかっています。

ここで注目すべきは、医療界以外で同じ問題をどのように扱っているか、という視点です。実は、レストラン業界でも類似の問題――「ノーショー」が存在します。予約を入れた顧客が現れない問題です。この問題に対する一つの解決策が、社会心理学者ロバート・チャルディーニによって提案されました。彼は、「コミットメントと一貫性」の原則に基づいたアプローチを提唱しています。これは、人々は一度公に誓約したことに対して一貫性を持つことが期待され、それに従う可能性が高いという考え方です。

たとえば、あるレストランでは、予約時に顧客に「予約を変更またはキャンセルする必要がある場合は、お電話いただけますか?」と尋ねる代わりに、「もし予約を変更またはキャンセルする必要がある場合は、お電話いただくことを約束していただけますか?」と変更したところ、ノーショーの割合が大幅に減少したのです。

この原則が医療の分野でも機能するかどうか、我々はロンドンの一部のGP診療所であるOutcomes-Based Healthcare (OBH)と共同で研究を行いました。OBHは、自分たちのDNA率を改善するための新たなアプローチを試みることに興味がありました。我々は、彼らの既存のテキストリマインダーシステムに、「コミットメントと一貫性」の原則に基づく幾つかの小さな変更を加えました。例えば、リマインダーメッセージは「私たちはあなたの予約を確認しました」という形ではなく、「あなたは予約を確認しました」という形で始まりました。

その結果、診察への出席率が顕著に向上しました。これは、患者が自分自身の予約に対するコミットメントを強く感じるようになり、その結果、診察を欠席する可能性が低くなったと考えられます。

この問題を解決するための多様な手段が試みられてきましたが、これまでの手法が必ずしも効果的であったわけではありません。しかし、最近の研究から興味深い結果が出てきました。その一部を紹介したいと思います。

まず、予約の電話の最後に予約日時を患者自身に念押ししてもらうという方法です。具体的には、電話の最後に「次回の診察は〇〇月〇〇日の〇〇時ですね?」と再確認するのではなく、「次回の診察日時を教えていただけますか?」と尋ねるのです。この小さな変化によって、DNA率が3.5%減少したとの報告があります。

次に、予約票を患者自身に記入させるという方法です。これは、予約票をスタッフが記入するのではなく、患者自身に記入させることで「コミットメントと一貫性」の原則を利用します。これにより、DNA率はさらに18.0%減少しました。

最後に、待合室に「無断キャンセルする人より、ちゃんと来院する人の方が圧倒的に多い」ことを示す掲示を行うという方法です。これは「大多数の人々が診察に来ている」というメッセージを患者に伝えることで、社会的な圧力を利用して診察の欠席を減らそうというものです。結果、DNA率は31.7%も減少しました。

これらの方法は、小さな変化であるにも関わらず、DNA率の大幅な改善を達成しました。一方で、これらの結果がすべての医療機関や患者に当てはまるわけではないことを明確にしなければなりません。それぞれの施設が独自の環境と患者集団を持っているため、実践する前には十分な考慮が必要です。

今回の情報は、我々が提供する診療の質を向上させ、患者との信頼関係を深めるための一つの視点であると考えています。このような斬新な研究を通じて、私たちは皆様とともに学び、成長していきたいと思っています。

これらの方法は、どれも日常の診療において容易に実施できるものであり、患者さん一人ひとりに直接働きかけることで、大きな変化をもたらすことができるという点で非常に価値のある取り組みであると言えます。

しかしながら、我々が一緒に学んでいく中で大切なことは、これらの方法がすべての医療機関や患者さんに当てはまるわけではないという事実です。それぞれの環境や状況は異なるため、一概にこれらの方法が有効であるとは言えません。

私たちは、こうした最新の研究を通じて、患者さんとのコミュニケーションの一助となり、さらなる理解を深め、より良い医療サービスを提供することを目指しています。私たちのクリニックは、皆様と共に、一歩一歩、前進し続けることをお約束します。

そして最後に、どんなに技術が進歩し、どんなに新しい知識が増えても、医療の根底にあるのは「人間」という存在です。我々は、皆様が抱える問題に対して、専門知識と共感心をもって向き合い、一緒に解決策を見つけることをお約束します。それが小川糖尿病内科クリニックの使命であり、私たちが心から信じる医療の在り方です。

この記事が、皆様の健康と医療に対する理解に少しでもお役立ていただければ幸いです。今後とも、皆様の健康と幸せをサポートするため、私たちは一生懸命努力してまいります。

みなさん、どうもありがとうございました。