Ding C, et al. BMC Med. 2021;19:167.
院長ブログ
2021.08.23 | お知らせ
健康講座236 ちょっとくらいのお酒ならいいかな??
適量の飲酒の習慣がある人は、心血管疾患の既往歴があっても、飲酒しない人と比べて、心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクが低い可能性が示されました。飲酒と健康に関しましては、何度も肯定的・否定的論文がでており、二転三転しております。一つの研究結果としてゆるりと眺めて頂くくらいでご覧ください。
心筋梗塞、狭心症、または脳卒中の既往歴を持つ男女のデータを抽出し、アルコールの摂取量と、全死亡、心血管疾患による死亡、および心血管疾患イベント(心筋梗塞の再発、脳卒中、狭心症など)の関連を検討しました。次いで、12件の研究論文(対象者の総計は3万1,235人)を抽出し、検討を行いました。その上で、これらの対象者(総計4万8,423人)におけるアルコール摂取量と結果との間の用量反応関係を調べました。
その結果、1日最大15gまでのアルコールを摂取している人では、飲酒しない人に比べて、心血管イベントのリスクが低いことが明らかになっておりました。15gのアルコールとは、英国でのアルコール摂取量の目安であるユニットに換算すると、2ユニット未満に相当する〔1ユニットは、通常のアルコール度数(4%程度)のビールのハーフパイント(284mL)、グラス2分の1杯のワインに相当する〕。また、1日最大62gのアルコール(約8ユニットに相当)を摂取している人でも、飲酒しない人に比べて、全死亡のリスクが上昇しないことも判明しました。
アルコール摂取のベネフィットが最も大きかったのは、1日に6〜8gのアルコール(1ユニット未満)の摂取でありました。すなわち、全死亡リスク、CVDによる死亡リスク、CVDイベント発生リスクが最低になるのは、それぞれ、1日当たりのアルコール摂取量が、7g(21%減)、8g(27%減)、6g(50%減)の場合であります。
注意頂きたいのは、この結果は、因果関係を証明するものではないではございません。少量から中等量の飲酒によって本当に保護作用が得られるのかどうかを見極めるのは難しいのでございます。その理由の一つに、飲酒しない人の中には、かつて飲酒の習慣があったが健康上の問題から禁酒した人も含まれていた可能性もあるからです。つまり、適量の飲酒の習慣がある人は、比較対象とした人たちと比べて健康状態が優れている可能性があるのです。実際、今回の研究でも、飲酒しない人の中から、過去に飲酒の習慣があった人を除外して解析したところ、適量の飲酒に関連した効果は減弱したということでございます。
それでも、心筋梗塞や脳卒中の既往歴があるからといって、アルコールを完全に断つ必要はないと解釈することもできそうです。ただし、飲酒量には上限を設けるのが賢明でございます。
厳密に適量の飲酒が心血管に有益な影響を与えることを証明するには、毎日、ワインやビールをグラス1杯飲む群と飲酒しない群を比較する臨床試験が必要です。
今回の知見から、われわれは通常、飲酒の習慣がない人には、新たに酒を飲み始めるべきではなく、また、飲酒の習慣がある人には、飲む量に上限を設けるべきだと考えるのがよろしいかと思われます。現時点ではっきりしているのは、酒を飲まない人が心臓の保護作用を期待して飲酒の習慣を始めるべきではないのはご留意願います。
原著