Yamada S, et al. Diabetes Metab Syndr Obes. 2021; 14: 2863-2870.
院長ブログ
2021.08.23 | お知らせ
健康講座234 緩やかな糖質制限への期待
みなさんどうもこんにちは。
小川糖尿病内科クリニックでございます。
糖質(炭水化物から食物繊維を除いたもの)の摂取量を1食20g以上40g以下に制限する「緩やかな低糖質ダイエット」を用いて、メタボリックシンドローム(MetS)や糖・脂質代謝が改善したとの報告がございました。コンビニエンスストアやタクシー会社社員対象に行った研究であり、緩やかな低糖質ダイエットの有効性を評価した研究であります。
インスリン分泌を刺激し血糖を上昇させるように働く糖質の摂取を減らし、タンパク質や脂質を増やす低糖質ダイエットは、近年、減量や血糖管理目的で行う人が増えております。ただし、厳格すぎる糖質制限食は、からだに合わなかったりコスト負担のため長続きしないことが多く、摂取する脂質の質が悪くかえって合併症が発病したり、リバウンドを招く懸念も指摘されているのも事実です。それに対して、20~40gの範囲内で毎食の糖質摂取量を減らし、1日10gの糖質でし好品も楽しむ「緩やかな低糖質ダイエット」が勧められております。
この研究の参加者は、ローソンの店員と日の丸交通のドライバーから採用されました。いずれも交替勤務または長時間の座業のために食事・運動習慣が乱れやすく、メタボリックシンドローム;MetSリスクが高くなりがちな職場環境でありました。社内告知を通じてこの研究への参加に関心を示した人のうち、特定保健指導判定基準を満たし、糖尿病や脂質異常症に対する薬剤が処方されていない101人が参加しました。
効果的な指導を行うために、1回当たりの介入対象者数を上限30人として、2016年春から2018年秋にかけて計6回、保健指導が実施されました。指導期間は12週間で、60分間のセミナーにより糖尿病やメタボリックシンドローム;MetS、緩やかな低糖質ダイエットのエビデンスなどを解説されました。また、緩やかな低糖質ダイエットに則したメニューのあるレストランの紹介、食品の選択方法などを指導しました。参加者は介入期間中、毎週メールやファックスで食事摂取状況と体重を指導者に報告し、指導者はアドバイスを返信し、積極的な運動を奨励したのです。
評価項目は、体重やBMI、HbA1c、血清脂質値の変化を検討しました。
12週間の介入によって、体重は中央値82.5kgから79.7kg、BMIは同27.3kg/m2から26.9 kg/m2へと有意に低下しておりました(いずれもP<0.001)。
一方、HbA1c、血清脂質値は有意な変化が見られなかった。しかし解析対象を、介入前にこれらの値が基準値を超えていた人に絞り込むと、全ての指標が有意に改善しておりました。
例えばですよ、HbA1cが5.6%以上だった60人では、介入前の中央値6.0%から5.6%に低下していたのです(P<0.001)。また、中性脂肪150mg/dL以上だった57人では242mg/dLから190mg/dLに、HDL-Cが40mg/dL未満だった31人では35mg/dLから40mg/dLとなっていたのです(いずれもP<0.01)。
さらに、低糖質ダイエットに伴い、時に上昇することのあるLDL-Cについても、120mg/dL以上だった31人の中央値が133mg/dLから120mg/dLに低下していた(P<0.001)。その他、介入に伴う有害事象は見られなかったのです。
この栄養指導法の有効性検証のためには、厳密には無作為化比較試験が必要です。それでも、緩やかな低糖質ダイエットは、メタボリックシンドローム;MetSを予防・改善するための効果的な介入法と期待できと思われます。
原著