Washino S, et al. J Clin Med. 2021 Apr 9.
院長ブログ
2021.11.06 | お知らせ
健康講座373 降圧薬と夜間頻尿
みなさんどうもこんにちは。
小川糖尿病内科クリニックでございます。
降圧薬として多くの患者に使われているカルシウム(Ca)拮抗薬が、男性の夜間頻尿に関連しているとするデータが報告されました。自治医科大学附属さいたま医療センター泌尿器科の研究によるものです。
睡眠中に尿意で目覚めてしまう夜間頻尿は、生活の質(QOL)を低下させ、時に抑うつを来すこともありますよね。夜間頻尿の発症には複数の原因が関与しており、高血圧や降圧薬の服用も一因である可能性が、先行研究から示唆されているのです。高血圧または降圧薬の服用と夜間頻尿との関連を明らかにするために、同センターの患者データを用いて横断的研究を実施したようです。
2018年1月~2019年12月の泌尿器科入院患者のうち、国際前立腺症状スコア(IPSS)に回答していた40歳以上の男性から、排尿に影響を及ぼし得る因子(前立腺がん、膀胱がん、膀胱炎、過去6カ月以内の前立腺手術歴など)と透析患者を除外した418人(平均年齢69.4±7.6歳)を解析対象としたものです。
夜間頻尿の有無と重症度はIPSSの評価法に則して、排尿のために目覚める回数で判定。2回以上の場合を「臨床的に重要な夜間頻尿」と定義しました。主要評価項目は、降圧薬の使用、または血圧高値(日中の血圧が140/90mmHg以上)が夜間頻尿と関連しているか否かであり、副次評価項目として、降圧薬のタイプとの関連を検討しました。なお、解析対象患者の入院目的は、前立腺全摘除術60%、前立腺生検21%、腎臓がん手術7%などです。
全体の57%に当たる240人が降圧薬を服用していたようです。降圧薬のタイプは、Ca拮抗薬71%(降圧薬服用者に占める割合)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)59%、アンジオテンシン変換酵素阻害薬13%、β遮断薬13%、α遮断薬13%、サイアザイド系利尿薬8%。単剤処方が107人、2剤併用が94人で、39人は3剤が併用されていたようです。日中の血圧高値は27%に認められました。IPSSスコアは合計の平均が8.23±6.88、夜間頻尿スコアが1.58±1.11であり、臨床的に重要な夜間頻尿は45.5%に認められました。
主要評価項目のうち、まず日中の血圧高値の有無で夜間排尿回数を比較した結果を見ると、降圧薬を服用しているか否かにかかわらず有意な関連は見られなかったようです。一方、降圧薬服用の有無で比較すると、降圧薬服用群で夜間の排尿回数が有意に多いことが分かったようです。
次に、副次評価項目である降圧薬のタイプ別に関連を解析。すると、Ca拮抗薬を服用している患者でのみ、夜間排尿回数の有意な増加が認められたのです。また、年齢層別の解析から、比較的若年(40~65歳)の患者で、Ca拮抗薬による夜間排尿回数増加への影響が強いことが分かったようです。
夜間の排尿回数と関連する因子を単変量解析で検討すると、年齢、IPSS1~6(夜間排尿回数以外)の合計スコア、HbA1cとの間に正の相関が認められました。BMIやeGFRとの間には、有意な関連がなかったようです。
臨床的に重要な夜間頻尿に関連する因子を多変量解析で検討したところ、年齢〔オッズ比(OR)1.06〕、IPSS1〜6の合計スコア(OR1.05)とともに、Ca拮抗薬の服用(OR2.68)が抽出され(いずれもP<0.0001)、Ca拮抗薬の服用は臨床的に重要な夜間頻尿の独立したリスク因子である可能性が示唆されました。
検討対象が泌尿器疾患患者であること、Ca拮抗薬やARB以外の降圧薬服用者が少ないこと、レトロスペクティブな解析であるので参考程度でお願いします。ただし、Ca拮抗薬は夜間頻尿に関連する唯一の降圧薬であり、血圧高値そのものは夜間頻尿との関連が認められないようです。男性高血圧患者、特に比較的若年の男性に対する降圧治療に際しては、夜間頻尿の出現に配慮する必要はありそうです。
原著