院長ブログ

健康講座720 ”食事とエネルギー:食事誘発性熱産生(DIT)の科学的解明”

 みなさん、こんにちは。今日は食事誘発性熱産生(DIT: Dietary Induced Thermogenesis)という重要なトピックについて、科学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。

まず最初に、「食事誘発性熱産生」あるいは「DIT」とは何でしょうか。食事誘発性熱産生とは、食事の摂取後に体温が上昇し、エネルギー消費が増加する現象を指します。このエネルギー消費は、私たちの全エネルギー消費の一部を占めており、摂取エネルギーのおよそ10%を占めていると言われています1。この現象は、生体が食物を消化・吸収し、栄養素を体内のエネルギーとして利用する過程で発生します。

DITのメカニズムについて少し掘り下げてみましょう。私たちが食事を摂取すると、その食事は口内で咀嚼され、胃と小腸を通じて消化されます。消化酵素によって食物は栄養素に分解され、これらの栄養素は腸壁を通じて血液に吸収されます2。ここまでのプロセスにもエネルギーが必要ですが、その後の栄養素の代謝プロセスもまたエネルギーを必要とします。

吸収された栄養素は、体内でさまざまな形に変換されます。例えば、炭水化物はブドウ糖に分解され、脂質は中性脂肪に、タンパク質はアミノ酸に分解されます。そしてこれらは体内の細胞でさらにエネルギー産生のために利用されます。このエネルギー産生プロセスで、エネルギーが放出され、体温が上昇します3。この過程全体がDITを形成し、これがエネルギーの消費に寄与します。

さらに、DITの大きさは摂取する食品の種類によっても異なります。タンパク質、炭水化物、脂質という三大栄養素の中で、タンパク質は最も高いDITを示します4。タンパク質は消化、吸収、代謝に多くのエネルギーを必要とするため、DITは比較的高くなります。これは、タンパク質が体内で分解、吸収、利用される過程が複雑で、それに伴い多くのエネルギーが消費されるためです。次にDITが高いのは炭水化物で、脂質は最も低いとされています。

さて、ここからは、DITと糖尿病との関連について詳しく見ていきましょう。エネルギー消費の低下は体重増加につながり、その結果として糖尿病のリスクが高まる可能性があります5。DITは全エネルギー消費の一部を占めているため、DITを上げることは、全体のエネルギー消費を上げ、体重の管理に役立ちます。そのため、食事内容を工夫してDITを上げることは、糖尿病予防にもつながる可能性があります。

また、最近の研究では、食事誘発性熱産生が糖尿病の進行を遅らせる可能性も示唆されています6。これは、DITによって血糖値の上昇を抑制し、インスリン抵抗性の改善に寄与するという理論に基づいています。これは、高タンパク質食や低GI(Glycemic Index)食など、DITを上昇させる食事が、血糖値の管理や体重管理に役立つ可能性を示しています7

しかしながら、食事誘発性熱産生についての理解はまだ進行中であり、食事がどのようにエネルギー消費に影響を及ぼすか、そしてそれが具体的にどのように疾患の発症や進行に影響を及ぼすかについては、これからの研究に期待するところです。

Footnotes

  1. Acheson, K.J., Gremaud, G., Meirim, I., Montigon, F., Krebs, Y., Fay, L.B., Gay, L.J., Schneiter, P., Schindler, C., Tappy, L. (2004). Metabolic effects of caffeine in humans: lipid oxidation or futile cycling? American Journal of Clinical Nutrition, 79(1), 40–46.

  2. Gropper, S.S., Smith, J.L., & Groff, J.L. (2009). Advanced Nutrition and Human Metabolism. Wadsworth, Cengage Learning.

  3. Westerterp, K.R. (2004). Diet induced thermogenesis. Nutrition & Metabolism, 1(1), 5.

  4. Pesta, D.H., & Samuel, V.T. (2014). A high-protein diet for reducing body fat: mechanisms and possible caveats. Nutrition & Metabolism, 11, 53.

  5. Swinburn, B.A., Caterson, I., Seidell, J.C., & James, W.P. (2004). Diet, nutrition and the prevention of excess weight gain and obesity. Public Health Nutrition, 7(1A), 123–146.

  6. Piaggi, P., Thearle, M.S., Bogardus, C., & Krakoff, J. (2013). Lower energy expenditure predicts long-term increases in weight and fat mass. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 98(4), E703–E707.

  7. Johnston, C.S., Day, C.S., & Swan, P.D. (2002). Postprandial thermogenesis is increased 100% on a high-protein, low-fat diet versus a high-carbohydrate, low-fat diet in healthy, young women. Journal of the American College of Nutrition, 21(1), 55–61.