院長ブログ
2023.07.07 | お知らせ
健康講座715 ”「食生活の秘密」:あなたのトリグリセライド値をコントロールするためのガイドライン”
皆さん、こんにちは。
こちらは小川糖尿病内科クリニックです。
『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』の新たな変更点として、随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値が設定されました。高TG血症を動脈硬化性疾患のリスクとして確認するためですが、TG値の単なる低下だけでは、疾患のリスクを低減させることは難しいとされています。これからは、高TG血症の原因となる生活習慣の改善と適切な治療介入により動脈硬化を抑制しようという、より全体的な視点で対策を行うことが求められています。
動脈硬化は虚血性心疾患や脳血管障害などの疾患の引き金となります。そのため、生活習慣病を改善する際には動脈硬化の予防も考慮しなければなりません。新ガイドラインでは、脂質異常症の診断基準値が異常な場合、それが「動脈硬化が進行するリスク状態」であることを、他の項目を含めた“包括的なリスク評価”により把握し、動脈硬化の進行度を理解することが強調されています。その一助として『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』も紹介されています。このアプリを使うと、次の10年間で動脈硬化性疾患が発症するリスクを「同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる」という具体的な形で示すことが可能です。これにより、患者自身が持つリスク(冠動脈疾患や糖尿病の既往病等)を再確認し、治療介入のレベルや管理目標などが明確化されます。
新ガイドラインでは、非空腹時のTGの基準値として、随時採血によるTG皆様、こんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。
2022年版の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では、新たな変更点として、非空腹時のトリグリセライド(TG)の基準値が導入されました。これは、高TG血症を動脈硬化性疾患のリスクと位置づけ、その確認をするためです。しかし、TG値を単に下げるだけでは十分ではないと指摘されています。高TG血症が引き起こされる生活習慣の改善や適切な治療介入により、動脈硬化を抑制する全体的なアプローチが求められています。
なぜなら、動脈硬化は虚血性心疾患や脳血管障害などの血管疾患を引き起こす可能性があるからです。生活習慣病を改善するとき、動脈硬化の予防を考慮することが不可欠なのです。新ガイドラインでは、脂質異常症の診断基準値が異常である場合、それが「動脈硬化が増えるリスク状態」を示していることを、他の項目を含めて「包括的なリスク評価」により把握することが求められています。これを支援するツールとして、『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』が紹介されています。
このアプリを使うと、予想される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクが「同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる」と具体的に表示されます。これにより、単に「〇〇値が高い」ではなく、患者個人が持つリスク(冠動脈疾患や糖尿病などの既往病)を明確に理解し、治療目標を設定することが可能になります。
また、新ガイドラインでは非空腹時のTGの基準値として随時採血の結果(175mg/dL以上)を採用しました。これは、食後にTGが食事により20~30mg/dL上昇することが知られており、それ以上にTGが高い場合は心血管疾患のリスクが高まることが日本の疫学研究で明らかになっています。例えば、随時TG値が166mg/dL以上の人は、84mg/dL未満の人と比べ、冠動脈疾患が2.86倍、心筋梗塞が3.14倍、狭心症が2.67倍、突然死が3.37倍というリスクが高まると報告されています。
現在の日本人の状況を鑑みても、肥満による耐糖能異常・糖尿病が増え、TGが上昇傾向にあるため、単にコレステロールの管理だけではなく、より全面的な対応が求められています。特に糖尿病患者では、LDL-CだけでなくTGの上昇もリスクが上昇し(1mmol/L上昇で1.54倍)、脂質異常症を放置することは極めて危険とされています。
治療法としては、LDL-Cの管理目標を達成した後、トリグリセライド(non-HDL-C)の適切なコントロールが推奨されています。
- 高リスク(二次予防や糖尿病患者)かつ高TGの人:スタチンでLDL-Cが適切にコントロールされた場合、イコサペント酸エチルの併用
- 高TGかつ低HDL-Cの人:スタチンの有無に関わらず、TGを低下させる治療(イコサペント酸エチル・フィブラート系/選択的PPARα)
- 高TGかつ低HDL-Cの人:スタチンに加えて、フィブラート系/選択的PPARαによるTG低下療法
以前はスタチンとフィブラート系の併用は横紋筋融解症のリスクから避けられていましたが、現在ではその禁忌が解除され、選択的PPARαモジュレータによる腎障害の禁忌も同様に解除されています。これにより、より多くの治療選択肢が可能となりました。
高TG血症の人は様々な生活習慣病のリスクを持つことが多いです。特に、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病といった状態は、高TG血症と深く関連しています。これらの病状を管理することは、TG値を改善するためにも重要です。
高TG血症の治療としてまず考慮すべきは、生活習慣の改善です。これには、健康的な食事、適度な運動、体重の管理が含まれます。特に食事については、飽和脂肪酸の摂取を控えること、オメガ3脂肪酸(魚などに含まれる)を適度に摂取すること、砂糖や精製炭水化物の摂取を控えることが重要です。
薬物療法が必要な場合は、医師の指導に従って適切な薬剤を使用します。スタチンはコレステロール値を下げる効果がありますが、TG値もある程度下げることができます。また、フェノフィブラートやジェムフィブロジルなどのフィブラート類、ニアシン、オメガ3脂肪酸(特にエパ(イコサペント酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸))は、TG値を直接下げる効果があります。ただし、これらの薬剤は副作用があるため、使用には医師の指導が必要です。
そして最も重要なのは、定期的な健康診断と血液検査による病状のモニタリングです。これにより、病状の進行を早期に発見し、適切な治療を始めることができます。また、自分自身のリスクを理解し、それに基づいて生活習慣を改善することが、健康維持にとって最も重要なステップとなります。
2022年版の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』の変更点を受け、当クリニックでも引き続き皆さまの健康管理に努めてまいります。どんな些細なことでも、お気軽にご相談ください。