院長ブログ

健康講座852 「うさぎ先生と学ぶ!心臓・腎臓を守る最新糖尿病治療」

 

皆さんこんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。

今日は、「2型糖尿病の患者さんに、新しいタイプのGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を、SGLT2阻害薬(SGLT2i)に追加したときの実際の効果」について、最新の研究をわかりやすく解説します。

この研究は、Nathorn Chaiyakunapruk先生たちが行い、Cardiovascular Diabetologyという医学雑誌に2025年に発表されました。


【背景】

最近の糖尿病の治療ガイドラインでは、糖尿病だけでなく、心臓や腎臓の病気のリスクを減らすために、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)SGLT2阻害薬(SGLT2i)を組み合わせて使うことが推奨されています。

しかし、実際の診療現場(リアルワールド)では、この組み合わせがどれくらい効果があるのかを長期間にわたって調べたデータはまだ限られていました。

そこで今回の研究では、

  • 心臓病や脳卒中(脳の血管が詰まる病気)の予防

  • 血糖コントロール(HbA1c)や体重の変化

  • 腎臓の健康状態

などがどう変わるかを、詳しく比較して調べたのです。


【研究方法】

この研究は「後ろ向きコホート研究」と呼ばれるタイプの研究です。つまり、すでに存在している患者さんたちの診療データをさかのぼって分析する方法です。

データはアメリカにあるKomodo’s Healthcare Mapという、大規模な医療データベースを使いました。

対象期間
2017年1月1日~2023年6月30日まで。

対象となった患者さん

  • SGLT2阻害薬を使っていた2型糖尿病の大人の患者さん

  • その中でさらに、新しいタイプのGLP-1RA(例:週1回タイプ、1日1回飲むオーラルセマグルチド、GLP-1とGIPの2つに働くデュアルアゴニスト)を追加で使っていたグループ

患者さんの数

  • SGLT2i+GLP-1RA併用グループ:100,455人

  • SGLT2iのみ使用グループ:339,540人

これらの人たちはさらに次の3つのグループに分けられました。

  1. 心血管疾患(ASCVD)を持つ2型糖尿病の患者さん

  2. 一般的な2型糖尿病の患者さん

  3. 慢性腎臓病(CKD)を持つ2型糖尿病の患者さん

それぞれのグループで、患者さんの年齢や性別、病気の状態などが均等になるように、「エントロピーバランシング」という統計技術を使って調整しました。

調べたこと(アウトカム)

  • 脳梗塞(ischemic stroke)が起きるまでの期間

  • 心筋梗塞(MI)が起きるまでの期間

  • 主要心血管イベント(3点MACE:心筋梗塞、脳卒中、心血管死)

  • さらに、心不全による入院と不安定狭心症も加えた5点MACE

  • 血糖コントロール(HbA1c)の変化

  • 体重の減少

  • HbA1cを7%未満、または8%未満に下げられたかどうか

  • 体重を5%、10%、15%以上減らせたかどうか


【結果】

患者数の詳細

  • ASCVDありのグループ:併用 34,690人、SGLT2iのみ 130,220人

  • 一般T2Dグループ:併用 8,220人、SGLT2iのみ 22,891人

  • CKDありのグループ:併用 8,783人、SGLT2iのみ 35,532人

心血管イベントに関する結果(T2D+ASCVDグループ)

SGLT2iだけを使っているグループと比べると、

  • 脳梗塞のリスクが42%も低下

  • 心筋梗塞のリスクが37%も低下

  • 3点MACEのリスクが46%も低下

  • 5点MACEのリスクが45%も低下

という結果でした。

つまり、心臓や脳の大きな病気を防ぐ力が、SGLT2i単独よりもGLP-1RAを加えた方が、はるかに強かったのです。

血糖と体重に関する結果(一般T2Dグループ)

さらに、血糖値(HbA1c)と体重についても、併用グループのほうが良い結果を出していました。

具体的には、

  • HbA1cを7%未満または8%未満に下げられる確率が高かった

  • 体重も5%、10%、15%以上減らせる確率が高かった

ということがわかりました。

どのGLP-1RAが一番効果的だった?

さまざまなGLP-1RAの中でも、週1回注射タイプのセマグルチド(Ozempicなど)を併用した場合に、

  • 心血管リスクの低下

  • HbA1cの改善

  • 体重減少

これらの効果が一番大きかったことがわかりました。


【まとめ(結論)】

この研究からわかったことは、

  • SGLT2阻害薬だけを使うよりも、そこに新しいGLP-1受容体作動薬を追加すると、心臓病や脳卒中を大きく減らせる

  • 血糖コントロールも良くなり、体重も減らしやすくなる

  • 心臓や腎臓を守る効果は、GLP-1RAとSGLT2iが「足し算」のように重なって、より強くなる可能性がある

ということでした。

つまり、GLP-1RAとSGLT2iの「いいとこ取り」ができるということですね。


【使われた専門用語の説明】

用語説明
2型糖尿病(T2D)インスリンの効き目が悪くなったり、出る量が足りなくなって血糖が高くなる病気
GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)食事の後に血糖値を下げるホルモン「GLP-1」と似た働きをする薬。食欲も抑える効果あり
SGLT2阻害薬(SGLT2i)腎臓で糖を尿に出すのを助けて、血糖を下げる薬
心血管疾患(ASCVD)動脈硬化が原因で起きる心臓や脳の病気(例:心筋梗塞、脳梗塞)
慢性腎臓病(CKD)腎臓の働きが少しずつ悪くなる病気
HbA1c過去1~2か月の血糖値の平均を表す指標
MACE(メイス)心筋梗塞、脳卒中、心血管死などの重大な心臓や脳の病気をまとめたもの

おわりに

今回の研究は、糖尿病の患者さんが将来の心臓病や脳卒中を防ぐために、どのような薬を使えばより効果的か、重要なヒントを与えてくれました。

もし今、SGLT2阻害薬だけを使っている方がいて、心臓や腎臓に不安があるなら、GLP-1RAを追加することが大きな助けになるかもしれません

もちろん、薬の追加には副作用やコストもありますので、主治医の先生とよく相談しながら、自分にあった治療を考えていきましょう!