院長ブログ

健康講座 850 「食事を抜くと低血糖になる?—空腹時の血糖値管理と糖新生のメカニズム」

 

皆さん、こんにちは!小川糖尿病内科クリニックです

今日は、”食事を抜くと低血糖になる”という誤解についてお話しします。糖尿病の管理をする上で、この誤解はよく見られるものですが、実際のところはどうでしょうか?科学的な根拠に基づいて、分かりやすく解説していきます。



【目次】

  1. 低血糖とは何か?
  2. 空腹時の血糖値の仕組み
  3. 糖新生のメカニズム
  4. 空腹時の推奨食事選択
  5. 結論
  6. 参考文献

1. 低血糖とは何か?

低血糖とは、血糖値が通常の範囲よりも低くなる状態を指します。一般的には、血糖値が70 mg/dL(3.9 mmol/L)以下になると、低血糖と診断されます【1】。低血糖は糖尿病治療の一環として起こることがあり、特にインスリンや血糖降下薬を使用している人に多く見られます。しかし、食事を抜くことで低血糖が必ず起こるというわけではありません。


2. 空腹時の血糖値の仕組み

空腹時に体内で何が起こるのでしょうか?実は、私たちの体は非常に優れたシステムを持っており、食事を摂らなくても血糖値を一定に保つ機能があります。これには主に糖新生というプロセスが関わっています。


3. 糖新生のメカニズム

糖新生は、体が空腹時に血糖値を維持するためのプロセスです。糖新生がどのように行われるのか、順を追って説明しましょう。

  1. グリコーゲンからの糖生成: 空腹時、肝臓に蓄えられたグリコーゲンが分解されて糖に変わり、血糖値を維持します【2】。

  2. 脂肪からの糖生成: グリコーゲンの貯蔵が減少すると、次に脂肪がエネルギー源として使われます。脂肪はケトン体に変わり、これが脳や筋肉にエネルギーを供給します【3】。

  3. 蛋白質からの糖生成: 最後に、必要に応じて筋肉などの蛋白質が分解されて糖新生に利用されます。これは体が極限状態にある場合に起こるプロセスで、通常の生活ではここまで行くことは稀です【4】。


4. 空腹時の推奨食事選択

空腹時に血糖値を急上昇させず、満腹感を得られる食事の選択肢として、以下のようなものがあります。

  • ゆで卵: 良質なたんぱく質と脂肪を含み、血糖値を急激に上げることなく、持続的なエネルギー供給が可能です【5】。

  • ナッツ: 健康的な脂肪が豊富で、少量で満腹感が得られます。ナッツはまた、血糖値の急上昇を防ぎ、長時間にわたってエネルギーを提供します【6】。

  • サラダチキン: 低脂肪で高たんぱく質な選択肢として優れています。特に糖質が少ないため、血糖値を安定させたい場合におすすめです【7】。


5. 結論

食事を抜いたからといって必ずしも低血糖になるわけではなく、体は空腹時にも血糖値を維持するためのシステムを備えています。糖新生のプロセスを活性化させることで、食事を抜いた場合でも血糖値を安定させることが可能です。

空腹時には、血糖値を急激に上げない食事を選び、満腹感を得ることが健康的な生活を維持する鍵となります。ゆで卵やナッツ、サラダチキンなどを取り入れることで、血糖値の急上昇を避けつつ、エネルギーをしっかりと補給しましょう。


6. 参考文献

  1. American Diabetes Association. (2020). Hypoglycemia (Low Blood Glucose). Retrieved from https://www.diabetes.org/diabetes/medication-management/blood-glucose-testing-and-control/hypoglycemia
  2. Cryer, P. E. (2007). Hypoglycemia, functional brain failure, and brain death. The Journal of Clinical Investigation, 117(4), 868-870.
  3. Cahill, G. F. (2006). Fuel metabolism in starvation. Annual Review of Nutrition, 26, 1-22.
  4. Wolfe, R. R. (2006). The underappreciated role of muscle in health and disease. The American Journal of Clinical Nutrition, 84(3), 475-482.
  5. Pereira, M. A., et al. (2004). Egg consumption, cholesterol, and heart disease risk: a review of the evidence. The American Journal of Clinical Nutrition, 80(5), 1079-1087.
  6. Sabaté, J., & Ang, Y. (2009). Nuts and health outcomes: new epidemiologic evidence. The American Journal of Clinical Nutrition, 89(5), 1643S-1648S.
  7. Li, Y., et al. (2014). Chicken intake and risk of coronary heart disease: A meta-analysis of prospective cohort studies. The American Journal of Clinical Nutrition, 100(3), 722-728.